論理的な考察・説明のために(その2,小論文編)

 ロジカルシンキングという言葉があります。
 小論文・レポートで求められていることの一つは「論理性」です。では、「論理的に思考する」とはどういうことか、どうすればよいか、以下の例題から考えてみましょう。


【例題・大学入試の小論文】 

医師に求められる資質とはどのようなものであると考えるか。今日の社会が抱えるさまざまな課題を考慮し、A4版で3枚程度でまとめること。


1,「努力宣言」で終わる小論文・レポートは、論理的ではない
⑴評価の低い文章によくある「結論」

 以上、ここまで自分なりに医師としての資質について述べてきた。今後は、医師として必要な資質を意識し、それが身につくように努力したいと考える。

 この結論の何がいけないか、おわかりでしょうか。
 小論文・レポートは、与えられた課題について考察し、その結論を示すものです。
 これを「面接」に置き換えると以下のようになります。
 面接官「医師の資質とは、どのようなものだと考えていますか」
 受験生「医師としての資質が身につくように努力したいと考えています」

 この受験生は、コミュニケーション能力に問題を抱えているようです…。


⑵「努力宣言」で終わるレポートに対する評価
 小論文・レポートは、与えられた課題についての考察とその結論を示すものです。
 したがって、「これから努力します(結論)」と回答することは、「与えられた課題を理解していない」という評価になります。
 志望理由書でも「受験生の精神論・理想論・価値観」が前面に出てしまうことがあります。そのため、「学びたい学問についての魅力や価値」が伝わらず、合否判定会議では審議の対象になることもなく不合格になるケースもあります。なぜならば、「与えられた課題を理解していない(論理的考察力がない)」からです。


2,与えられた課題の理解が「論理思考のはじまり」である
⑴例題から考えてみましょう。
 ①与えられた課題を確認する
  「医師としての資質とはどのようなものか」という問いです。
 ②キーワードの定義を確認する
  「医師」の定義を確認します。
  受験する大学は、どのような医師を求めているかを確認してください。
  ここでは、「臨床医」「地域医療への貢献」と仮定します。
 ③キーワードについて知識を得る
  地域医療とは何かを学ぶ。文献・書籍などからですね。
 ④なぜ「資質」が問われているかを考える
  診断~治療方法が決定したら、患者に指示して治療開始という時代ではありません。
  患者の知る権利やQOLに基づき、患者さんの納得・合意を得ることが重要です。
  つまり、医師には「患者さん本位の治療」が求められているのです。
 ⑤出題の意図は何か(俯瞰的にとらえ直す)
  「地域医療・チーム医療を任せられる人材なのか」が試されています。
  なぜなら、そういう立場・役職に就くことを期待されているからです。


⑵「医師としての資質とはどのようなものか」という問いに、どのように回答するか
 ①ヒントは、課題文の中にある
  課題文には「今日の社会が抱えるさまざまな課題を考慮し」とあります。
  なぜこのような「条件」を課したのでしょうか。
 ②医学・医療・医師は「社会課題の解決」も求められている
  医師には、少子高齢化や社会保障費の増加などの課題解決も求められています。   
  病気やけがを治すだけが医師の役割ではなくなってきているのです。
  つまり、従来型の医療の改善や、新しい医療の創出の発想が必要なのです。
 ③「医師としての資質」として求められているのは
  今日の社会が抱える課題に気づき、その解決を導く発想・考察(回答)です。
  そういうレポートに高い評価がつきます。 


⑶与えられた課題を理解しない人はどのようなレポートを書くか
 ①医師としての資質について、持論を述べる  (個人の理想論)
 ②地域医療についての一般論を説明する    (誰でも知っている知識の羅列)
 ③従来型の医療の長所だけを肯定的に述べる  (課題の提示がない)
 つまり、「社会課題に気づかず、解決も導かれていないレポート」ですね。
 評価は、「論理性がない=医師の資質に欠ける」になります。 


3,本日のまとめ「論理的に思考するとは」
 ①「与えられた課題」の意図を理解すること
 ②「課題の意図」に基づいた回答を相手に返すこと
 ③「①②」のようなコミュニケーション・キャッチボールができること


 高校生のみなさんは、「医師」という言葉を、自分が希望する「職業」「学問」に置き換えて読み直してください。