評価されない小論文・レポートのパターン(コラム2)

 時代と価値観の変化に伴い、小論文・レポートの評価基準も変化しています。


1,従来型の評価は「知識の確認」
 たとえば、企業の研修レポートならば、研修で学んだ内容を理解しているかどうか。
 大学入試の小論文ならば、出題分野についての知識があるかどうか。
 この場合、小論文・レポートでは、教科書的な知識、研修で学んだこと知識を羅列すれば合格と言えます。
 このような従来型の評価を、「正解のある時代の評価」と言います。


2,現在の評価は「論理思考の評価」
 といっても、知識不要ではありません。「1」で述べた知識・理解は「前提」になります。そして、授業や研修で学んだことに基づいて、自分の考察を示すのです。
 これが、いわゆる「正解のない時代」の評価です。
⑴「正解がない」という言葉を補足すると以下のようになります。
 ①課題に対する「論点」は、一つではない。
 ②課題に対する「解決」も、一つではない。
 ③複数ある「解決」は、どれも「正解」である。


⑵「どれも正解」に対する対応は、ここまで以下のように述べてきました。
 ①複数ある正解について、それぞれのメリット・デメリットを検証・整理する
 ②複数ある正解について、選択の基準(判断の基準)を提示する
 ③複数ある正解について、それを超えた弁証法的解決を提示する
 そして最も大切なのは、以下のことです。


3,小論文・レポートの評価で最も重要なこと
 「現在の評価」には「減点法」が含まれています。
 減点の基準には以下のようなものがあります。この「減点基準」に抵触しないことが最も重要です。なぜなら、どんなにすばらしい考察が示されていても、以下の減点基準に抵触すると、それが「致命傷=C評価」につながるからです。

①指示された書式設定と異なっている(出題条件との不一致)

②課題テーマへの回答がない(出題意図の理解不足)

③論点の絞り込みが不足で、課題が明示されていない(問いが不十分)

④そもそも、論点がない(論点の不足) 

④主張に対して、根拠・理由がない(論理性の欠如)

⑤根拠に客観性・具体性がない(客観性・具体性・独自性の欠如)

⑥解決の発想について、実践に基づいた効果・課題の検証が示されていない(検証不足)

⑦そもそも、解決の発想が仮説のままである(検証不足) 

 採点者として苦悩するのは、課題が明示され、論点の設定が適切であったとしても、解決の発想が示されていなければ、C評価にするしかないことです。
 同様に、論点の設定から解決の発想まで、論理思考に基づいた見事な考察が示されていても、解決の発想が検証をふまえておらず、それが仮説のままの場合、C評価にするしかないことです。
 つまり、「正解のない時代の小論文・レポート」には、「不正解」が存在するのです。
 不正解とは上記に示した「減点ポイント」です。この減点ポイント(不正解)があると、どんなに見事な考察が示されていても、C評価になるのです。


4,本日のまとめ
 ①正解のない時代の小論文・レポートでは、「論理思考」が重要である。
 ②「論理思考」の不足は、致命傷となる。
 ③「論理思考」が示されていることが、A評価の前提である。

論理思考 その7「課題とは何か」

 「論理思考その6」で、「論点を設定する」「問いを繰り返すことで課題を明確にする」ことを述べました。
 今回は、「課題」について、もう少し述べます。


1,課題とは何か
 問いを繰り返すことで、課題をあぶり出します。
 課題を突き詰めていくと、ジレンマが現れる場合があります。


 ジレンマとは(ウィキペディアより引用)

⑴ある問題に対して2つの選択肢が存在し、そのどちらを選んでも何らかの不利益があり、態度を決めかねる状態。葛藤。


⑵哲学や議論、修辞学の分野において前提を受け入れると2つの選択肢の導く結論がともに受け入れがたいものになることを示す論法。

日本語では両刀論法ともいう。


 医療には「QOL」という考え方があります。「生命の質」ですね。
 たとえば、完治が難しい病気になった時、本人に伝えるか、伝えないかという選択が生じます。伝える(余命宣告する)場合、「少しでも長く生きるための治療を継続するか」「病や治療による苦痛を緩和するためのケアを優先するか」という選択が生じます。
 この時、本人にも、その家族にも、ジレンマが生じます。
 「入院して治療を継続するか」「自宅で自分らしい暮らしをするか」です。


 マネジメントでは、たとえば「トップダウンか」「ボトムアップか」という選択もあります。リーダーについての考えでも「従来型のリーダーシップか」「ファシリテーション型か」という選択があります。


 つまり、「課題」は、ジレンマが明確になるまで掘り下げるということです。
 課題に内在する「二律背反」「二項対立」「逆説」「矛盾」を言語化するのです。


2、課題が明確になったら
 たとえば、「AかBか」まで課題の焦点を絞れたとしましょう。
 その時、AもBも「正解」であるはずです。これが俗にいう「正解はない」ということです。どちらも正解なのです。この時、解決への考察は2つの方向があります。
⑴「AかBか」から選択する
 これは、課題とその背景などから判断することになります。
 その際、重要なのは二つです。
 ①それぞれのメリット・デメリットを考察・整理すること
 ②判断の基準を示すこと

 判断の基準を示すことは、「論理思考 その6」でも述べました。


⑵「AかBか」をこえた「C案」を提示する
 弁証法的発想です。
 AかBかではなく、それをこえた(止揚・アウフヘーベン)したC案を提示することです。評価する立場から言えば、これがA評価になります。
 C案の基本は、「弱みを強みにする」という発想です。
 
3、本日のまとめ
 ①問いを繰り返すことで課題を明確にする
 ②課題に内在する「ジレンマ(二律背反)」を言語化することがA評価への道
 ③課題に対する解決は、判断の基準を示したうえでの二者択一が一つ。
 ④課題に対する解決は、弁証法的な発想からのC案がA評価への道
 ⑤弱みを強みにする発想を日常から意識すること

論理思考 その6「課題を明確にする」

 C評価にしかならない小論文・レポートに「論点がない」ことがあります。
 「論点がないからC評価」ということではありません。論点がないために、「課題に対する考えが提示されない」「持論や一般論の羅列に過ぎない」ことがC評価の根拠となります。逆に言えば、論点さえ設定されていれば、A評価になるのに…という小論文・レポートも少なくありません。


1,論点の設定ができれば、小論文・レポートは半分完成
 与えられたテーマ・課題に対し、何を論点とするか。これを決めるのは大変です。
 高校生からのよくある質問に「どう書けばよいかわからない」「書き出しをどのようにすればよいかわからない」というのがあります。これに対する答えは、「論点を決めましょう」です。論点の提示から書き始めれば、論点に対する考えを示せるわけですから。
 では、論点を決めるにはどうすればよいかですね。
 これには「問いを繰り返せ」と返答します。大手企業の研修でも「WHY、もしくはHOWを最低5回繰り返してください」と伝えます。そして、実践してもらいます。
 ここでは、「ロジカルシンキング(照屋華子、岡田恵子)」p37の例を参考に述べます。


2、問いを繰り返す
 例題を「顧客からのクレームが多い」とします。
 これに対して、5回問いを繰り返すと以下のようになります。


 ①与えられた課題 「顧客からのクレームが多い」
  解決の方法   「クレームを減らせばよい」
 ◆繰り返される問い「どんなクレームなのか、なぜクレームが多いのか」
  ↓
 ②問いの具体化  「商品の故障よりも、対応への不満が多い」
  解決の方法   「顧客対応を改善せよ」
 ◆繰り返される問い「どんな対応をしているのか、なぜ対応に不満が多いのか」
  ↓
 ③問いの具体化  「販売員は、販売には熱心でも修理に対応に関心が弱い」
  解決の方法   「販売員の修理対応への意識を高める」
 ◆繰り返される問い「なぜ販売員は修理対応への意識が低いのか」
          「修理依頼に対して、どのような対応をしているのか」
  ↓
 ④問いの具体化  「優秀な営業員ほど修理対応をしたがらない。そのため、修理対応は
           営業成績のパッとしない人の吹き溜まりになっている」

  解決の方法   「優秀な営業マンに修理対応を動機づける」 
          「修理対応の担当者を変更する」
 ◆繰り返される問い「なぜ優秀な営業マンが修理対応をしたがらないのか」
  ↓
 ⑤問いの具体化  「新規販売台数のみが人事考課の対象になっている。
           顧客のリピート率、対応力などは評価の対象になっていない」

  解決の方法   「人事の評価方法を見直す」
          「修理対応を営業から切り離し、プロを育成する」



3,課題を絞り込む(問いを繰り返す)
 評価の低い小論文・レポートは、「顧客からのクレームが多い」に対して、「クレームを減らせばよい」と回答します。これが「Aができないなら、Aすればよい」という反転の発想です。これでは、評価に値しません。
 評価を高めるためには、問いを繰り返すことで課題を絞り込むことが必要です。例題の場合は、問いを5回繰り返すことで、クレーム要因が「顧客対応・修理対応が人事考課の対象になっていないこと」とわかりました。
 ここまで絞り込めば「論点」の設定ができます。
 課題:「顧客からのクレームが多い」
 論点:「顧客対応・修理対応が人事評価の対象になっていないからではないか」
 解決:「顧客対応・修理対応(リピート率)を販売実績と同等に近い評価とする」
    「修理対応部門の新設」


 そして、それぞれの効果・課題について検証まで言及してください。
 人事考課の対象にすると、給与体系の問題が発生します。販売と対応と評価バランスも重要です。修理部門新設となると組織の問題です。全社的な議論も必要になります。それぞれにコストがかかりますから、その検討も必要です。
 また、大きな企業であれば、どこかでクレームが少ない支店、クレーム対応がうまくいっている部署があるかもしれません。これらの先行事例を参考にすることも考えられます。


4,本日のまとめ
 ①与えられた課題に対し「論点」を設定する
 ②「論点」は、問いを繰り返すことで明確になる
 ③「解決の発想」は、その効果・課題の検証をわすれずに