評価されない小論文・レポートのパターン(コラム1)

1,大学入試・企業内の昇進試験で問われていること
⑴大学受験をする高校生にする、定番のたとえ話
 音楽大学の入試では、「ピアノ」が必須です。「ピアノが弾けること」が音楽大学進学の前提条件です。 
 つまり、「ピアノは弾けないが、ピアノを弾けるようになりたいから音楽大学に進みたい」という志望理由はあり得ません。
 これと同様なことが、他の大学・学部でも求められつつあります。たとえば、「法律の勉強はしたことがないが、法律に興味があるので法学部で学んでみたい」では通用しない時代になりつつあります。
 つまり、法学部の志望理由としては、以下3つが前提条件として求められています。
 ①法、法律について基本的な概念は理解している。
 ②研究したいテーマがある
 ③解決したい課題を持っている


⑵このたとえ話は、企業研修でも有効
 たとえば、マネジメントをテーマにした研修では、以下のことが前提条件として求められていることを、研修の冒頭で提示します。なぜなら、「私はまだ役職に就いたことがない、マネジメントの経験がないからわからない」では、もう通用しない時代だということをお伝えするためです。
 ①マネジメントをテーマとした書籍などを読み、基本的な概念は理解している。
 ②所属部署・担当業務について、「改善点」を指摘することができる
 ③「改善点」について、解決の提案をすることができる


2,すぐれた小論文・レポートに共通する傾向
⑴弁証法的な発想
 人の成長、組織の発展を考える場合、「長所を伸ばすか、短所を直すか」という二者択一が「論点」になる場合があります。この「論点」に対する評価は、以下のようになります。
 ①A評価 「短所を強みに変える」という弁証法的発想で解決を導く
 ②B評価 「長所を伸ばす」「短所を直す」いずれかの発想で解決を導く
 ③C評価 「解決すべき課題」が明示されていない


⑵「B~C評価」によくある発想 
 「スキー場の経営という課題」、あなたならどのように考えますか。
 スキー人口が減り、雪も減り、スキー場の経営はとても難しくなっています。
 この課題に対し、よくある解決の提案は以下のとおりです。
 ①インバウンド需要を掘り起こす
 ②人工降雪機や送迎バスなどの導入
 ③ゲレンデ内のレストランの改善、イベントの開催
 これらの提案に共通するのは、「スキー場=冬」という先入観に閉じ込められていることです。つまり、「冬の利益を増やすにはどうすればよいか」が論点になっているのです。しかも、経営が苦しいスキー場に「高額な設備投資」を強いる提案でもあります。
 加点できる要素がありません。


⑶先入観に気づき、先入観から離れることがポイント
 「春・夏・秋」を利益にできないでしょうか
 スキー場は、山の自然の中にあります。しかも、ゴンドラなどで頂上まで上がれます。地上では曇りでも、頂上では「雲海」です。夜は星もきれいに見えるでしょう。桜や紅葉など季節の変化を提供することもできます。また、自転車・バイクの「ダウンヒル」には絶好の環境です。椅子やテーブルを置けば、家族でのんびりする、テレワークをする人も出てくるでしょう。このような「山×自然×季節」に内在する「魅力・価値」を引き出し、利益に変えるのです。


 まとめると、以下が「A評価」の要因です。
 ①「冬以外の季節」から利益を生み出す(先入観から解放されている)
 ②「グリーンシーズン」の魅力・価値を利益に変える(ブランディング)
 ③「②」のために既存の施設を活用する(先行投資を抑える)


 これらをもう少し掘り下げ、「検証×立証」までできると「S評価」です。
 ①「グリーンシーズンの訪問客」が、冬のスキーにリピートする可能性
 ②「スキー以外のジャンル」とのコラボレーションによる
新たな集客
 ③「実現可能性」の高さ


3,本日のまとめ
 すぐれた小論文・レポートには、以下の要素があります。
 ①前提条件を意識した「準備・考察」を、日常的に実践している。
 ②「短所を強みに変える」という弁証法的な発想で考察している。
 ③「先入観」に気づくことで、先入観から離れた創造的な発想を可能にしている。


 次回から、「課題設定」に入ります。

小論文・レポートの段落構成

 評価が低い文章に共通する傾向として、「段落構成がないこと」があります。
 まず「型を整えること」を意識するとよいでしょう。具体的には、「段落構成×見出し」の工夫です。ところで、段落構成はなぜ必要なのでしょうか。
 今回は、段落構成の意味を考察することからはじめます。


1,段落構成が必要な理由
⑴考える順序と伝える順序
 考える順序は、「原因・理由→主張・結果」です。
 伝える順序は、「主張・結果→原因・理由」です。
 つまり、考える順序、伝える順序は「逆」なのです。


⑵段落構成は「伝える順序」に基づいている
 段落構成は「伝える順序」に基づいています。たとえば「序論・本論・結論」は、伝える順序で構成されていると考えてください。
 したがって、小論文・レポートに「考えた順序で書く形式」は、本来ないものと考えるとよいでしょう。「考えながら書いた文章が、序論・本論・結論で構成されること」はないはずです。


⑶高い評価を得るためには書く前の準備が必須
 評価が低い小論文・レポートは、「考えながら書いた文章」です。
 一方で、書く前に「結論×段落構成」を決め、「結論から書き始めた文章」は、読み手にとって「わかりやすい文章×評価の高い文章」になっています。
 執筆前に、「出題意図を読み取る」「結論を見出す」「計画的な段落構成が行う」とよいのではないでしょうか。


2,段落構成のパターン
⑴段落構成の基本パターン
 序論・本論・結論です。
 形式段落は3段落以上でも構いません。内容的に大きく3段落(序論・本論・結論)で構成してください。
 ①序論 文章全体の内容を示す、主張・結論を提示する
 ②本論 主張・結論とその根拠を示す、客観的・具体的根拠に基づいた考察を提示する
 ③結論 文章全体の考察を整理する、主張・結論を検証しその結果を提示する


⑵調査・実験などの場合
 これも序論・本論・結論と言えます。しかし、少し内容が増えます。
 ①序論 文章全体の内容を示す、主張・結論を提示する
 ②方法 調査・実験の「方法・手順」などを説明する
 ③結果 調査・実験から得られた事実(データなど)を提示する
 ④考察 「結果」から導かれる考え(仮説)を検証する
 ⑤結論 本文全体の考察を整理する、考察・検証によってわかったことを明示する


⑶小論文・レポートには共通の型がある
 文章にも「ドレスコード」があると思ってください。
 小論文・レポートは「他者に読んでもらうもの」「公的な評価を受けるもの」です。フォーマルな文章が求められています。「常体」「書き言葉」での表記が求められているのも、「書式設定」「文字数などの条件」などを守らないと減点されるのも、フォーマルな文章だからです。
 そして、段落も「読み手に伝えるための型」で構成してください。


3,本日のまとめ
 ①小論文・レポートの段落構成は「伝える順序」でできている。
 ②執筆前に「構想を練る」ことが高い評価につながる。
 ③「序論・本論・結論の3段落」で構成する。

そして、出題条件の確認(その2「出題意図を理解する」)

 下の例題について、前回は「文字数」について考察しました。
 今回は、「出題意図」という視点から考察します。
 まず、例題をご覧ください。


【例題】
⑴企業レポート
 管理職に求められる資質とはどのようなものであると考えるか。当社が抱えるさまざまな課題を考慮し、A4版で3枚程度でまとめること。


⑵大学入試の小論文
 医師に求められる資質とはどのようなものであると考えるか。今日の社会が抱えるさまざまな課題を考慮し、600字以内で答えよ。


1、よくある低評価パターン
⑴A~Cの3段階で「C評価」になる文章
 以下のような文章は、書式・表記が正しく、論理性・独自性・創造性が高い考察が示されていても「C評価」です。 
 ①「資質」のみを掘り下げて書いている。
 ②「課題」についてしか取り上げていない。
 ③「役職者とは」「医師とは」について持論を述べることに終始する。


⑵この3つのパターンがなぜ「C評価」になるのか
 出題意図を理解していないからです。
 言葉を換えれば「課題として与えられた条件に答えていない」ということです。
 小論文・レポートでは、「課題として与えられた条件には、すべて回答すること」が前提です。しかし、3つのパターンは、与えられた条件のすべてに回答していません。
 課題として与えられた条件を切り取った文章なのです。これは、C評価しかできません。


2,課題として与えられた条件にはすべて答える
 まず、課題を分析しましょう。そして、与えられた条件にすべて答えるのです。
⑴課題は、「中心となる問い」と「その前提」からできている
 ①中心となる問い
 ・役職者・医師に求められる資質とはどのようなものか
 ②問いの前提
 ・当社の課題・社会課題と結びつけて回答すること
 ・役職者・医師の定義を明示すること


⑵前提と中心となる問いとの「むすびつき」が重要
 「例題」から出題の意図を類推してください。
 「例題」では、課題と結びつけた考察が求められています。ここから考えられるのは、「社会問題への関心があるか」「貢献的な発想を持っているか」ということです。「役職者・医師になりたい」という熱意を訴えることは求められていません。試されているのは、「役職者・医師として、世の中や人々に役に立つという発想があるかどうか」です。
 このストライクゾーンに投げ込むことが評価を高めます。


⑶「課題発見とその解決」の力も求められている
 重要なのは「課題の設定」です。
 課題を見つけるために必要な、「観察力」「分析力」「先入観から離れて思考する力」などを身に付けているかが試されています。そういうことを、日々意識しているか、思考習慣として身についているかが、ここでわかります。
 また、課題が適切に設定されていれば、課題から解決への考察・説明の流れもよくなります。そのことで、評価も高まります。


3,本日のまとめ
 ①出題意図を理解し、与えられた条件にはすべて回答する。
 ②課題は「中心となる問い」と「その前提」とからできている。
 ③「自分の希望や思いを述べること」は求められていない。
  小論文・レポートでは、「自己の客観的な思考力」が試されている。