論理的な考察・説明のために(その3,書く前の準備)

 小論文・レポートのゴールは何ですか?
 大学入試・昇進試験の場合は、「合格」と考える人も多いです。
 では、「合格」と評価される小論文・レポートとはどのようなものでしょうか。


1,まず、相手を意識すること
⑴小論文・レポートを評価するのは、あなたが知らない人
 もちろん、評価する人も、あなたを知りません。ですから、知らない人でも理解できる説明が求められます。その説明とは「前提の整理・確認」です。
 したがって、同じ組織・チームで研究・業務を共にし、価値観なども共有している人に対する伝え方では、説明不足になります。論文・レポートではなく、「業務連絡・メモ」に近い文章を書いてくる人も少なくありません。
 この場合、相手への意識が弱い=論理的な思考ができないという評価になります。


⑵相手への意識とは
 これは、3段階にわかれます。そして3段階目が、小論文・レポートのゴールです。
①相手に「理解」してもらう
 まず、「伝える内容」を相手に理解してもらいます。次に「知ってもらいたいこと」を伝えます。業務連絡・事務連絡がこれにあたります。


②相手から「フィードバック」をもらう
 まず、「伝える内容」を相手に理解してもらいます。次に「相手はどのように考えるのかなどの感想、賛成反対の判断、改善点の指摘や助言」を引き出します。顧客のニーズを引き出すヒアリングやマーケティング、社内会議の話題提供や報告などがこれにあたります。


③相手に「行動」してもらう
 まず、「伝える内容」を相手に理解してもらいます。次に「相手が実際の行動に移すこと」を導きます。販売代理店などの第3者にキャンペーン参加を依頼し、賛同・承諾を得た場合がこれにあたります。大学入試では、小論文を読んだ教授が「この高校生と一緒に研究をしたい」と思うことがこれにあたります。
 あなたの書いた小論文・レポートは、どの段階ですか。


2,相手に行動してもらうとは
⑴企業研修とそのレポートの場合
 研修テーマが「マネジメント」だったとしましょう。
 組織は大きくなればなるほど、「トップダウン型」になりがちです。ただし、トップダウンの指示系統が「社員の安全確保」「合理的な業務振興」につながることも多いです。これはメリットですね。
 一方で、トップダウン型組織には、「上司の裸の王様化」「部下の思考停止」などのデメリットが潜んでいます。トップダウンの指示系統が「社員の安全を奪う(ハラスメントなど)」「非合理的な業務を生む(上司と部下との風通しの悪さ)」こともあるのです。
 組織に長く所属していると、デメリットが見えなくなります。トップダウンが日常になって、そのことに疑問を感じなくなるのです。そういう状況の中で、「トップダウン型のデメリットを、「所属部署・担当業務の中で具体的に提示すること」が、相手の行動のきっかけになります。なぜなら、相手に「気づき」を与えるからです。
 相手が「このレポートに書いてあるとおりだ。自分も気をつけなければ、そして改善しなければ」と思う、改善に動き出す。これが「相手に行動してもらう」です。


⑵大学での研究とそのレポートの場合
 地域おこしをテーマとした小論文を例に述べます。
 東日本大震災で大きな被害を受けた町が舞台です。その町で老舗の呉服屋さんが主催の「高校生のファッションショー」が行われました。呉服屋さんが主催とあって、着物・浴衣などの伝統衣装というイメージを持って集まった人も多かったのです。しかし、実際には、高校生が憧れるファッション・着たい服を自由に選んだものでした。
 最大の話題となったのは「ゴスロリ」でした。大人も子供も面白がったのです。
 このことが、町の中高生にある希望を与えました。それまで、人々の表情は暗く、同調圧力を感じることも多かったようです。しかし、実際には、被災した町に活気が戻ってくること、そのためには子供たちが自由に、好きなように生きることを望んでいるということが、大人から子供たちに伝わったのです。
 このストーリーには、人口減少・過疎化が進む町の再生を考えるヒントがあります。
 こうした取材力・視点から考察を進める学生は、教授の研究に刺激を与えます。この小論文を読んだ教授は、もっと深く知りたい、質問したいと考えるでしょう。これが「相手に行動してもらう」になります。


3,本日のまとめ
 ①論理性の高い小論文・レポートを書くためには、書く前の準備が重要である。
 ②相手を意識することが、文章の「論理性」を高める。
 ③小論文・レポートを読んだ相手が、その内容に刺激を受けて「行動を起こすこと」が
  ゴールであることを意識する。


 これが、合格する小論文・レポートです。

論理的な考察・説明のために(その2,小論文編)

 ロジカルシンキングという言葉があります。
 小論文・レポートで求められていることの一つは「論理性」です。では、「論理的に思考する」とはどういうことか、どうすればよいか、以下の例題から考えてみましょう。


【例題・大学入試の小論文】 

医師に求められる資質とはどのようなものであると考えるか。今日の社会が抱えるさまざまな課題を考慮し、A4版で3枚程度でまとめること。


1,「努力宣言」で終わる小論文・レポートは、論理的ではない
⑴評価の低い文章によくある「結論」

 以上、ここまで自分なりに医師としての資質について述べてきた。今後は、医師として必要な資質を意識し、それが身につくように努力したいと考える。

 この結論の何がいけないか、おわかりでしょうか。
 小論文・レポートは、与えられた課題について考察し、その結論を示すものです。
 これを「面接」に置き換えると以下のようになります。
 面接官「医師の資質とは、どのようなものだと考えていますか」
 受験生「医師としての資質が身につくように努力したいと考えています」

 この受験生は、コミュニケーション能力に問題を抱えているようです…。


⑵「努力宣言」で終わるレポートに対する評価
 小論文・レポートは、与えられた課題についての考察とその結論を示すものです。
 したがって、「これから努力します(結論)」と回答することは、「与えられた課題を理解していない」という評価になります。
 志望理由書でも「受験生の精神論・理想論・価値観」が前面に出てしまうことがあります。そのため、「学びたい学問についての魅力や価値」が伝わらず、合否判定会議では審議の対象になることもなく不合格になるケースもあります。なぜならば、「与えられた課題を理解していない(論理的考察力がない)」からです。


2,与えられた課題の理解が「論理思考のはじまり」である
⑴例題から考えてみましょう。
 ①与えられた課題を確認する
  「医師としての資質とはどのようなものか」という問いです。
 ②キーワードの定義を確認する
  「医師」の定義を確認します。
  受験する大学は、どのような医師を求めているかを確認してください。
  ここでは、「臨床医」「地域医療への貢献」と仮定します。
 ③キーワードについて知識を得る
  地域医療とは何かを学ぶ。文献・書籍などからですね。
 ④なぜ「資質」が問われているかを考える
  診断~治療方法が決定したら、患者に指示して治療開始という時代ではありません。
  患者の知る権利やQOLに基づき、患者さんの納得・合意を得ることが重要です。
  つまり、医師には「患者さん本位の治療」が求められているのです。
 ⑤出題の意図は何か(俯瞰的にとらえ直す)
  「地域医療・チーム医療を任せられる人材なのか」が試されています。
  なぜなら、そういう立場・役職に就くことを期待されているからです。


⑵「医師としての資質とはどのようなものか」という問いに、どのように回答するか
 ①ヒントは、課題文の中にある
  課題文には「今日の社会が抱えるさまざまな課題を考慮し」とあります。
  なぜこのような「条件」を課したのでしょうか。
 ②医学・医療・医師は「社会課題の解決」も求められている
  医師には、少子高齢化や社会保障費の増加などの課題解決も求められています。   
  病気やけがを治すだけが医師の役割ではなくなってきているのです。
  つまり、従来型の医療の改善や、新しい医療の創出の発想が必要なのです。
 ③「医師としての資質」として求められているのは
  今日の社会が抱える課題に気づき、その解決を導く発想・考察(回答)です。
  そういうレポートに高い評価がつきます。 


⑶与えられた課題を理解しない人はどのようなレポートを書くか
 ①医師としての資質について、持論を述べる  (個人の理想論)
 ②地域医療についての一般論を説明する    (誰でも知っている知識の羅列)
 ③従来型の医療の長所だけを肯定的に述べる  (課題の提示がない)
 つまり、「社会課題に気づかず、解決も導かれていないレポート」ですね。
 評価は、「論理性がない=医師の資質に欠ける」になります。 


3,本日のまとめ「論理的に思考するとは」
 ①「与えられた課題」の意図を理解すること
 ②「課題の意図」に基づいた回答を相手に返すこと
 ③「①②」のようなコミュニケーション・キャッチボールができること


 高校生のみなさんは、「医師」という言葉を、自分が希望する「職業」「学問」に置き換えて読み直してください。

論理的な考察・説明のために(その1,研修レポート編)

 ロジカルシンキングという言葉があります。
 小論文・レポートで求められていることの一つは「論理性」です。では、「論理的に思考する」とはどういうことか、どうすればよいか、以下の例題から考えてみましょう。

【例題・企業レポート】

 管理職に求められる資質とはどのようなものであると考えるか。当社が抱えるさまざまな課題を考慮し、A4版で3枚程度でまとめること。



1,「努力宣言」で終わる小論文・レポートは、論理的ではない
⑴評価の低い文章によくある「結論」

 以上、ここまで自分なりに管理職としての資質について述べてきた。今後は、管理職として必要な資質を意識し、それが身につくように努力したいと考える。

 この結論の何がいけないか、おわかりでしょうか。
 小論文・レポートは、与えられた課題について考察し、その結論を示すものです。
 これを「面接」に置き換えると以下のようになります。
 面接官「管理職の資質とは、どのようなものだと考えていますか」
 受験生「管理職としての資質が身につくように努力したいと考えています」

 この受験生は、コミュニケーション能力に問題を抱えているようです…。


⑵「努力宣言」で終わるレポートに対する評価
 
小論文・レポートは、与えられた課題についての考察とその結論を示すものです。
 したがって、「これから努力します(結論)」と
回答することは、「与えられた課題を理解していない」という評価になります。
 プレゼンでも「プレゼンターの精神論・理想論・価値観」が前面に出てしまうことがあります。そのため、「商品の魅力」「課題とその解決の提案」が伝わらず、コンペでは議論の対象になることもなく落選になるケースもあります。なぜならば、「与えられた課題を理解していない(論理的考察力がない)」からです。


2,与えられた課題の理解が「論理思考のはじまり」である
⑴例題から考えてみましょう。

 ①与えられた課題を確認する
  「管理職としての資質とはどのようなものか」という問いです。
 ②キーワードの定義を確認する

  「管理者」の定義を確認します。
  マネジャー・管理者などの言葉が浮かびます。反対語は、プレーヤー・実務者です。
 ③キーワードについて知識を得る
  マネジャー、マネジメントとは何かを学ぶ。文献・書籍などからですね。
 ④なぜ「資質」が問われているかを考える
  「名プレーヤー、必ずしも名監督とはならず」という言葉があります。
  マネジャーには、プレーヤーとは異なる資質が必要なのかもしれません。

 ⑤出題の意図は何か(俯瞰的にとらえ直す)
  「組織・チームのマネジメントを任せられる人材なのか」が試されています。
  なぜなら、そういう立場・役職に就くことを期待されているからです。


⑵「管理職としての資質とはどのようなものか」という問いに、どのように回答するか
 ①ヒントは、課題文の中にある
  課題文には「当社が抱えるさまざまな課題を考慮し」とあります。
  なぜこのような「条件」を課したのでしょうか。
 ②組織は「従来型のマネジメント」の改善を求めている
  時代や価値観が変化しています。この変化にあわせて組織も変化が求められています。
  「当社が抱える課題」とは、従来型のマネジメントの限界のことと考えられます。
  つまり、従来型マネジメントの改善や、新しいマネジメントの創出が必要なのです。
 ③「管理者としての資質」として求められているのは
  当社が抱える課題に気づき、その解決を導く発想・考察(回答)です。
  そういうレポートに高い評価がつきます。 


⑶与えられた課題を理解しない人はどのようなレポートを書くか
 ①管理職としての資質について、持論を述べる  (個人の理想論)
 ②マネジメントについての一般論を説明する   (誰でも知っている知識の羅列)
 ③従来型マネジメントの長所だけを肯定的に述べる(課題の提示がない)
 つまり、「当社が抱える課題に気づかず、解決も導かれていないレポート」ですね。
 評価は、「論理性がない=管理職の資質に欠ける」になります。 


3,本日のまとめ「論理的に思考するとは」
 ①「与えられた課題」の意図を理解すること
 ②「課題の意図」に基づいた回答を相手に返すこと
 ③「①②」のようなコミュニケーション・キャッチボールができること