論理思考 その5「根拠の重要性」

 評価の低い小論文・レポートに共通するのは、「根拠への言及がない」「文脈から根拠と読み取れるが根拠として明示されていない」「根拠が弱い」です。
 今回は、根拠について考えます。


1,根拠が弱い、説得力が低いと評価される2つのパターン
⑴事実の反転「Xが必要である。なぜならXがないからだ」 
 御社が利益を上げるには、販売代理店のチャンネルを増やすことが必要だ。
 なぜなら、販売代理店の数が少ないからだ。

 原因を反転させれば解決になるという発想です。論理思考の世界では、反転は根拠とは認めません。しかし、「反転」を根拠・解決とする発想は意外と多いのです。
 この場合、課題は「収益悪化」と考えられます。
 収益悪化にはさまざまな要因が考えられます。その中で、「販売代理店のチャンネルが収益悪化にどれくらいの影響があるのか」「チャンネルを増やすことで収益はどのように好転するのか」「チャンネルはどのように増やせばよいのか」「そのための投資は利益に見合うものか」などまで踏み込んだ考察が必要です。
 ここまで考察・検証して「根拠」と言えます。


⑵事実以外のことを根拠としている
 御社の収益悪化の原因は、御社の商品に魅力がないからだ。
 「商品に魅力がない」とする理由の提示には2つの方法があります。
 ①魅力の定義に基づいた客観的な事実(根拠)を示す
 ②判断・仮説としての根拠
 「①」の提示ができればよいのです。
 「②」の提示しかできない場合、主張の信憑性はほぼないと言ってもよいでしょう。
 「魅力がない」という感覚的なことをそのまま根拠とした発想だからです。
 「魅力がない」という感覚的なことを客観的な事実として示すためには、最低2つのことが必要です。
 ①客観的なデータや評価で魅力のなさが裏付けられていること
 ②データや評価が、商品のどこに着目し、どのような現象を示しているのかを明示する
 このようなケースでは、「商品に魅力がない」と多くの人が感じていることが多いです。したがって、魅力がない(主観・直観)を、データや評価で裏付ける(客観)ことが必要です。主観・直観・感覚をいかに客観的な根拠で示すか、この工夫が重要です。


2,判断基準を共有することも忘れずに
 ⑴でも述べましたが、収益悪化の原因が「販売代理店のチャンネルの不足」だとしましょう。おそらく、それも収益が伸びないことの要因であることは間違いないでしょう。
 では、販売代理店をどこまで増やせばよいのでしょうか。「増やせば増やすほど収益は増え、業績が回復するという」というものではないはずです。
 「販売代理店のチャンネルをどこまで増やすのか?」「その判断の根拠は?」「投資に見合った損益分岐点は?」などの「判断の軸」が、企業にとって戦略的な視点のはずです。
 この「判断の軸を明示する」「判断の軸とそこに至る根拠・理由を明示する」ことまで踏み込んでください。


3,本日のまとめ
 ①「事実の反転」は、根拠としても、解決の発想としても弱い
 ②「直観・主観」などの感覚は根拠にはならない
 ③「自分の判断・仮説」を根拠としても、その信憑性はうすい
 ④「主張を裏付けること」ができる「データ、評価」で根拠の客観性を高めること
 ⑤「主張」については、その「判断の軸」まで明示すること

論理思考 その4「何を回答すればよいのか」

 与えられたテーマ・課題に対して、自分の考えを持つことは大切です。ただし、自分の考えたことを「すべて・そのまま」答えることは評価につながりません。小論文・レポートで求められるのは、自分の考えたことの中から「与えられたテーマ・課題に対する考え」を回答することです。


1,評価の低いレポートによくあるパターン
⑴「論理」まで達していない答案には、高い評価はつきません。以下、例示します。
 ①C評価 課題に対する回答が明示されていない
 ②C評価 主張・結論は読み取れるが、その根拠・理由がない
 ③B評価 主張に対する「原因・理由」は読み取れる。
       ・つまり「因果関係」は成立している。しかし「根拠」がない。
 ④B評価 主張に対する「理由・根拠」まで読み取れる。
       ・ただし、根拠の客観性・具体性が弱い(一般論・推測など)


⑵高い評価になる答案とは
 ①A評価 主張に対する「根拠・理由」まで読み取れる
       ・かつ、根拠の具体性・客観性が高い
 ②A評価 「主張・根拠・理由」に加え「方法」まで明示されている
     
2,主張、根拠・理由、方法とは
⑴B評価に対するコメント
 B評価の人は、理由までは示してあるわけです。ただし、理由の理由=根拠が示されていないのです。つまり、因果関係は成立していますが、「論理性・論理思考」までは達していないのです。このパターンには、以下のようにコメントします・
 「根拠と理由とはワンセットで書いてください」


⑵方法とは?
 たとえば、「マネジメント」をテーマとするレポートだとしましょう。
 この場合、3つの要素を満たすことで「論理性・論理思考」と評価されます。
 ①主張・結論 テーマに対するあなたの考え
        ・重要なのは、テーマ・課題(論点)への回答となっていること。
 ②根拠・理由 主張・結論に至った根拠・理由。
        ・重要なのは、主張・結論について読み手を納得させられること
 ③方法    主張・結論で提示したマネジメントを実現する方法
        ・重要なのは、相手がその方法を理解・実践できること
        ・方法が、具体的に提示されていること


⑶マネジメント上の課題として、ボトムアップの体制が必要と主張した場合
 トップダウンのデメリットが大きいという課題を提示し、その回答として「ボトムアップ」を主張した場合です。
 この場合、「どのようにボトムアップの体制を作るか、組織に新しい風を吹かせられるか」が論点となります。そして、「解決の方法」を考えます。そして「解決の方法」を実践してください。
 「解決の方法」を提示して終わりでは、「仮説・机上の空論」に過ぎません。
 「解決の方法」を実践し、その有効性・効果、課題・改善点の検証まで示してください。
 「思いついた方法、一般的な方法論」を述べて終えるのはありません。小論文・レポートを書く前に、「方法」を実践・検証し、課題解決に有効という根拠まで提示するのです。
 この時、はじめて「具体的な実践に基づいた考察」という評価が与えられます。
 つまり、「高い論理性を示した文章」と評価されるのです。


3,本日のまとめ
 評価の高い小論文・レポートとは
 ①テーマ・課題に対する回答が明示されている
 ②根拠と理由とがセットになっており、読み手の納得感を導く
 ③解決の方法が明示されている。
 ④解決の方法は、実践を経て、その効果・課題などの検証もされている
 ⑤解決の方法は具体的に示されており、読み手も理解して実践できる内容である

論理的な考察・説明のために(その3,書く前の準備)